WWDC 2015 ―Mac OS X El Capitanに筑紫書体―




昨夜あっていたWWDC 2015のお話。


WWDCはAppleが毎年やっている、iOSとOS Xの話題がメインの開発者向けイベント。毎年この時期になると、色々なニュースサイトやブログがその内容の予想を始め、今回に関して言えば、iOS、OS X、あとは音楽配信サービスの話が盛り上がっていた。で、いざ蓋を開けてみると中身は実際そうだったんだけど、その中で一つ個人的にめちゃくちゃテンションの上がるニュースがあった。


それが、Mac OSに4つの新しい日本語フォントが加わるニュース。


僕は今朝これを見て「Appleやりおった!」と一人電車の中でめちゃくちゃ興奮していたんだけど、残念なことに?一日経ってみてもネットに上がってくるWWDCのまとめ記事ではこの話題の取り扱いがめちゃくちゃ小さく、ものによっては完全にスルーしているのもある。


記者の方がこのニュースにあまりインパクトを感じていないんだと思うけど、それが残念だというのは取り敢えず置いておいて、この記事では代わりにこのニュースのインパクトを伝えたい。



なんと言っても筑紫書体が標準搭載というのは相当ビッグなニュース!

まず、どこがビッグなのかというと、この"筑紫書体が"というところ。これがもし、Noto Sans(←質の高いフリーフォント)搭載!、なんてニュースだったら別に(フリーフォントという意味で)「あっ…そう…。」で終わる話だし、後で触れるヒラギノ角ゴのウェイト拡張だけだったなら「おおー」くらいで終わる話である。(この辺は勿論、個人個人で受け取り方は違うと思うので、あくまでも私個人の所感ということで捉えて頂ければ。)



まず前提知識として、フォントベンダーの話を。

フォントベンダーとは文字通りフォントを作って販売している会社のことで、基本的にフォント作り専門の会社である。日本には有名なベンダーがいくつかあり、その中でも特に規模が大きいのが、大阪に本社を置くモリサワと、福岡に本社を置くフォントワークスである。この二社は現状二強といっても差支えないほど、プロユースのフォントではシェアを握っている。(フォントを語る上で欠かせない写研という会社もあるんだけど、今は関係ないのでスルー。でもこの辺の関係性とか系譜とかは調べてみるととても面白い。)


で、この二社のフォントの話をすると、昔漢字talkの時代にモリサワのリュウミンがバンドルされていたこともあったらしいが(僕は知らない)、ここ最近ではこの二社のフォントというのは、WindowsやMacに一切バンドルされておらず、現状一つ1万強とかのバラ売りパックを購入するか、モリパスやLETSとかいう年間契約料5万とか3万のプラン(後者は入会費も要る)に入らないと使うことができなかった。(よく知らないけど、これでも安くなった方らしい。ただ、こんな料金でも買う人は買うわけで、というかデザイナーにとってはAdobeのCCみたく、そもそも買わないと仕事ができない、一種の仕事道具なわけで、(使うとわかるけど)確かにそれだけのクオリティを持ち合わせていると思う。)


そして、最初の方に"筑紫書体が"と筑紫書体を強調したけど、それはなぜかというと、筑紫書体はこのフォントワークスのフラッグシップフォントで、バラ売りがされていない、つまりこれまでならさっき言った高額な年間契約プランに入会しないと使えないフォントだったのである。


しかし今度のアップデートで、なんとその一部が無料で使えるようになる!
すごいと思いません??



昔、Macにヒラギノが入っていることを、ジョークで「ヒラギノを買ったらMacがついてきた」みたいに言ったことがあったけど、もはやそんなレベルじゃない。


だって、現状LETSに入会せずに筑紫A丸ゴ、B丸ゴを使うにはMacを買う以外に方法がないんだから!


これこそまさに、「フォントを買ったらMacがついてきた」状態である。




誤解を恐れず、要点をまとめると、

  • 筑紫A丸ゴシック、B丸ゴシックを作っているフォントワークスという会社は、現状モリサワとならんで、日本の2大フォントベンダー。デザインの世界ではこの2社のフォントがスタンダード
  • この2社のフォントは金出して買う(使う)のが普通、というのがこれまでの常識で、OSに標準搭載されることなどありえなかった。遡れば、漢字talkにリュウミンが入っていたことはあるらしいけど、Mac OS、Windowsにこの2社のフォントがバンドルされていたことは恐らく一度もなかった。
  • 特に今回採用された筑紫A丸ゴシック、B丸ゴシックはフォントワークスの看板書体なので、切り売りされていなかった。買い切りで(年間使用料を払わないで)、これらのフォントを手に入れる現状唯一の手段が、Macの購入になっている。



ということで、言いたいことは言ったので、以下で今回新たにバンドルされたフォントワークスの書体をご紹介。
※これから出す画像はEl Capitanについているフォントでタイプしたものではないので、実際とウェイト等が異なることがあるかもしれません。


クレー(クレーはバラ売りされている。)





筑紫A丸ゴシック(下画像のウェイトはR)





筑紫B丸ゴシック(下画像のウェイトはR)




筑紫A丸ゴシック、B丸ゴシックは写研の石井丸ゴシックの流れを汲む?、文字の懐が狭いオールド系の丸ゴシックで、めちゃくちゃ綺麗なフォント。僕はフォントワークスのサイトでこのフォントの書体見本を見て感動したのを今でも覚えている。



続いて、こちらはフォントワークスではないけど、游明朝体+36ポかな。游明朝体と游築36ポ仮名の合成フォント。





名前から分かるように字游工房のフォントで、こちらもこれまではバラで買うか、モリパスで手に入れないと使えなかったフォント。ここ数年、オールド系フォントにブームが来ていて、モリサワのリュウミンKOだったり、フォントワークスの筑紫Aオールドだったりは広告等でよく見るので、このチョイスは凄くありがたい。



そして最後にちょこっと書いてあるけど、ヒラギノ角ゴの収録ウェイトが増えるらしい。






現状ヒラギノ角ゴは9ウェイトで展開されていて、今のOS Xだと確か4ウェイトくらいしか収録されていなかったと思う(訂正:W3、W6、W8の3つだったらしい)。特に細い方はW3までしか入っていなくて、細いゴシックを使おうと思うと、小塚や源の角(Noto Sans)に行かざるを得ない状況だったので、(仮に細い方を充実させてくれるのであれば)かなり便利になるなーと。


追記:Macお宝鑑定団さんによると、市販されていないウェイトW0を含む、10ウェイトで構成されるそう。
OS X El Capitan採用フォント「筑紫A丸ゴシック、筑紫B丸ゴシック、クレー、ヒラギノ角ゴシック」について



こんな感じで、実際にリリースされるまでは、ウェイトの面で使い勝手がどうなるかはわからないものの、相当いい方向に向かっている感じはある。


特に最近Windowsが8で游明朝体・游ゴシック体がバンドルされたり、Windows 10でフォントレンダリングが向上したり(聞いた話)と、Microsoftは「フォント周りでWindowがMacに劣っている」というイメージを払拭しにかかっている印象を(僕は勝手に)受けていたので、今回の「筑紫書体の追加」という試みはMacのフォントに対する矜持を感じさせるものだった。(恐らくライセンス料もなかなかのものだと思う。)だから、Windowsのフォントは汚いというイメージはいづれ払拭されるかもしれないけど、Macのフォントは綺麗というWindowsに対するアドバンテージはまだまだ維持されるんじゃないかなと。



で最後に、いちフォント好きの意見として、恐らくフォントの良さに気付くタイミングって、印刷物で綺麗なフォントを見た時とかじゃなくて、実際に自分が何か作ろうとして(他と比較しながら)フォントを選ぶその瞬間だと思う。だから、こうして予めいいフォントをユーザーの手持ちに混ぜておくことで、ユーザーがフォントの良さに気づき、フォントに興味を持つ人が増えいく、そういう流れになればすごく嬉しい。



WWDC 2015 ―Mac OS X El Capitanに筑紫書体― WWDC 2015 ―Mac OS X El Capitanに筑紫書体― Reviewed by mug on 6/10/2015 Rating: 5

2 件のコメント:

  1. このコメントは投稿者によって削除されました。

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  2. > 昔漢字talkの時代にモリサワのリュウミンがバンドルされていたこともあったらしい(僕は知らない)
    リュウミンL-KLと中ゴシックBBBですね。Apple LaserWriter II NTX-J の外付ハードディスク(確か80Mbyte!)に搭載されていました。今でもGhostScriptなら使える(指定だけかも)?
    フォントの話って奥深くていいですね

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